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下するが、浮体下部では熱のやりとりが返られるため周囲と比較して高温となるからであると考えられる。
一方、海上風の強さが変化すると、熱・塩分収支も変化し、流れのパターンに影響を及ぼす事が考えられるそこで、夏季の条件のもとで、風速のみ4m/secから10m/secまで2m/sec刻みで変えるシリーズ計算を行った。ただし、ここでも風応力は0としている。
Fig.5に、各風速についてのA−A’断=面における平均流速を示す。風速の低い方から順に観察すると、風速4,6,8m/secについては、A−A’断面での最大流速が小さくなっていく傾向はあるが流れのパターン自体には変化はない。しかし、風速8m/secと10m/secの間では、大きさだけでなくパターンにも変化が見られ、風速8m/secにおいては浮体直下では下降流となっているのに対し、風速10m/secにおいては浮体直下で上昇流が生じており、これはむしろ前節における冬季のパターンに近い。この理由は、海上風速が大きくなると、海面からの顕熱・潜熱による海面の冷却が盛んになるためであると考えられる。すなわち、冬季の条件での特徴は、海面からの熱放出が大きく、浮体付近をのぞき密度成層が形成されないことであり、平均流速分布はその影響を強く受けていると考えられるが、夏季の条件においても風速を大きくすると海面からの熱放出が大きくなり、夜間には密度成層が消失し、冬季の水温・密度分布に近くなるためであると考えられる。Fig.6, Fig.7に、風速4m/sec,8m/secのときのC点の各水深における密度変化の時刻歴をしめす。風速の違いによって密度の鉛直分布に変化が生じている事がわかる。
3.2 浮体による風応力の遮蔽の影響
まず、湾口における潮位を常に0とし、日射の影響を無視し、密度計算を行わない状態で、浮体による風応力の遮蔽の影響についてシミュレーションを行った。風向によってシミュレーションの結果は異なるが、本節においては湾入口から奥に向かって3.8m/secの風が吹くものとした。Fig.8に、浮体が存在しない時と浮体が存在する時のA−A’断面でのそれぞれの平均流速分布を示す。面図を比べると、浮体の無いときは上層で流入、下層で流出という単純な流れのパターンになっている。それに対し、浮体がある場合は、浮体近傍の風下側表層の流速が小さくなっているのは当然の事であるが、第2層目の流向が風上側と風下側で異なっている。このように、風応力のみによる吹送流にも浮体の影響があらわれている。
また、Fig.9に、浮体が存在する時の水深2,6,14mにおける水平方向流速の分布を示す。風下側表層に浮体の影響が出るのは当然であるが、水深6mの図では浮体の両脇に循環流が現れること、浮体とはかなり離れた場所で風の方向とは異なる横方向の流れが顕著であること、また、水深14mの図においても風向と異なる流れがあらわれることなど、下層の流向に浮体の影響が生じていることがわかる。
このように、浮体の影響が浮体の近傍にとどまらない事は、注目すべきことである。最後に、Fig.10に、夏季(7月)の条件のもとでの、日射、潮汐、および風応力を考慮した、浮体の存在する時の各水深における流速分布を示す。水深2mにおいて、風下側の流速の小さい領域が非常に広い事、水深6mにおいて、風下から浮体方向に向かう流れが非常に強く現れている点が、風のみの場合と比べて特徴的である。
以上限られた場合につき数値シミュレーションを行ったが、その結果を総合すると、日射や風などによって、浮体周辺の流況は顕著な影響をうけることがわかった。よって浮体が周囲の海水の流況や水温、塩分分布に与える影響については、注意深く検討する必要がある。
4 おわりに

本研究では、超大型浮体の海面遮蔽の影響について、数値シミュレーションを行った。それにより得られた緒論は以下の通りである。
1. 海面に浮体が存在すると、日射や風の作用を連破することによって浮体周囲の流況などに顕著な影響を生ずる可能性のあることがわかった。
2. 浮体による周囲の流況に対する影響は、必ずしも浮体周囲に限られずに、浮体からかなり離れた所にもその影響が生ずる事がわかった。
3. 個々の影響因子の強さを変化させた場合、流況の変化は必ずしもその強さに比例しない。例えば、風速を変えた例によれば、流速が変れば流れのパターンも変わる。これは、風による熱収支のバランスが変化した事が一つの原因と考えられる。したがって、多数の因子が影響すると考えられるときは、個々の影響因子の組合せ方やその因子の強さの選び方を十分考慮しつつシミュレーションを行う必要があると思われる。

 

 

 

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